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『パレード』『悪人』『横道世之介』『怒り』など数多くの小説が映画化されてきたベストセラー作家、吉田修一と、多様なジャンルの話題作、問題作を世に送り出し、近年も『MOTHER マザー』『星の子』で絶賛を博した大森立嗣監督。モスクワ国際映画祭審査員特別賞ほか国内外で賞に輝いた『さよなら渓谷』以来、10年ぶりに両者のタッグが実現。炙り出される過去の”原罪”と、未来への光。その拮抗が終始、観る者の理性と感性を激しく揺さぶる、比類なきヒューマン・ミステリーが誕生した。

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介護施設での殺人事件を発端に、想像もつかない方向へとうねり出す物語は、重層的な構造と壮大なスケール感で観る者を圧倒する。一心不乱に真実を求めて貪り合う登場人物たちの姿は、闇夜の湖畔で艶めかしい“生”の輝きを放つ。その愚かさと愛おしさ、汚れとイノセンスの両面をまっすぐに見すえた本作は、観客に人間という存在の本質を問いかけるかのようだ。
この野心的な映画でダブル主演を務めたのは福士蒼汰と松本まりか。身も心も剥き出しでさらけ出す覚悟を要求される難役を渾身の演技で体現した。トラウマを引きずる刑事に扮した浅野忠信が、ただならぬ凄みに満ちた存在感を発揮。そして福地桃子、財前直見、土屋希乃、穂志もえか、三田佳子が、幾多の謎や罪に触れる“湖の女たち”を演じ、このうえなく濃密でスリリングなアンサンブルを披露している

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事件の捜査にあたった西湖署の若手刑事・圭介とベテランの伊佐美は、施設の中から容疑者を挙げ、執拗な取り調べを行なっていく。その陰で、圭介は取り調べで出会った介護士・佳代への歪んだ支配欲を抱いていく。
一方、事件を追う週刊誌記者・池田は、この殺人事件と署が隠蔽してきたある薬害事件に関係があることを突き止めていくが、捜査の先に浮かび上がったのは過去から隠蔽されてきた恐るべき真実・・・。それは、我々の想像を超えた過去の闇を引き摺り出すー。そして、後戻りできない欲望に目覚めてしまった、刑事の男と容疑者の女の行方とはー。

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福士蒼汰

圭介は今まで経験したことのない役柄だったので、僕にとって非常に大きな挑戦であり、役者人生におけるターニングポイントと呼べる作品となったと自負しています。

原作や台本を読み込み、撮影に向けて準備を整えて臨みましたが、役者がすべきことは"その場の空気に身を置く"こと、思考を取っ払って感じるがままを表現することだと、改めて気付かされた現場でした。
大森監督が僕を原点に引き戻して下さったのだと感じています。

"わかりやすさ"や"意味"を求められることが多い昨今ですが、この作品では、人間の奥底で疼く何かを感じていただきたいです。言葉だけでは説明がつかない人間という生き物を、湖の絶景と共に受け止めていただけたらと思います。

松本まりか

大森立嗣という人はただひたすらに私を見つめ続けました。
何も語らず肯定し続けました。

私は認められ解き放たれ自由であることに戸惑いました。芝居は俳優はこうあるべきとか、誰かが決めてくれた常識を鵜呑みして従い縛られ生きることに安心感を覚えていること…なんならその不自由さを求めてすらいることに気がつきました。自分は何者なのか、何がしたいのか、何がしたくてここまできたのか、自分の中に何があるのか、何もない、持たない、結局何者でもないことを突き付けられ、焦り、限界を知り、静かに壊れてゆきました。

そこに至って私はようやく、自分を守る、偽るガードが崩れ、その隙から本当に美しいもの、その本質に一瞬、出会うことが出来たのです。

それは私であり佳代であり、自分と役を隔てるものはなかったように思います。

ラストシーン。
彩りを帯びてゆく空と湖、逆光の大森組が三位一体になった夜明け。
あんなにも美しい景色を見たのは初めてでした。
どうしようもなく此処で生きたいと思ってしまった。

「誰かを信じ切る」という監督の揺るぎない覚悟と共に、

あの強烈な映画体験は、生涯この身体から離れることはないでしょう。

浅野忠信

『湖の女たち』に出演できて本当に幸せです!
大森監督のどこまでも俳優を受け止めてくれる演出に甘えて好きなように演じさせていただきました。そしてとても魅力的な俳優の方々とも深いところでお芝居を楽しめた事は貴重な経験となりました。
是非映画館で楽しんでいただけたらと思います。

福地桃子

いくつかの場面で人は本心を吐き出すことで孤独や恐怖心から解放され体が軽くなる。こうした心の拠り所というのを気付かぬうちにずっと求めているんだと感じました。
私が演じた池田という人は真実を見つめ美しい光を求めて歩き続けていました。
これまで見てきた私が思う記者像というのとは少し違った感覚があり、学びが多くありました。

財前直見

人間の傲慢さ、欲望、儚さ、あやまちなど、どちらかといえばマイナスな部分をさらけ出し、湖がそのすべてをつつみこんで癒してくれる…そんな映画だと感じました。
大森監督と御一緒させていただいたのは初めてでしたが、自由にお芝居させていただき感謝しております。
刑事さんたちの執拗に追い詰める厳しい取り調べには、心が折れそうでしたが、それでも楽しい日々でした。
素晴らしい監督の演出と俳優さん達の演技、見応えある美しい景色と物語に、時間を忘れ魅了されてしまうと思います。

三田佳子

「90歳を越えたであろう老婦人」という思いもかけないオファーに少し戸惑いを感じた私ですが、原作が吉田修一氏、監督が大森立嗣さんであることを知り、後先を考えずに出演を決めてしまいました。
そして、この謎に満ちた老女もまた「湖の女」だったということが、演じる私にとって大きな魅力となりました。
福士蒼汰さん、松本まりかさん、浅野忠信さんと役で出会うことがなかったことが、ちょっぴり残念。
映画「湖の女たち」。熟成されたワインの様な大森監督の世界を、私も楽しみに味わいたいと思います。

監督:大森立嗣

吉田修一さんの『湖の女たち』と言う小説を読みました。この世のケガレと生の輝きが渦巻くようなものすごい小説でした。沸々とした気持ちを抑えられず、大きな挑戦でしたが映画にしたいと熱望し、なんとか完成までこぎつけました。福士蒼汰と松本まりかが主演です。二人は本当に素晴らしい演技をしています。今は心に響く映画になったのではないかと思っていますが、どのように伝わるか緊張の中にいます。どうか皆さまに届きますように。

原作:吉田修一

海は眺めるものだが、湖はこちらを見つめてくる。
本作を観終わって尚、ざわざわと落ち着かぬ心にそんな言葉が浮かんでくる。
映画を見ていたつもりが、気がつけばずっとその映画に見られていたような感覚だった。
劇中、不毛でアブノーマルな性愛に溺れていく男女を演じる福士蒼汰さんと松本まりかさんからも、その何かを問いかけるような凄みが強く伝わってくる。
二人が重ね合わせるのは体ではなく、互いの弱さである。互いが日常生活で抱えている服従心である。
では人はどのようなときに服従を選択するか。
自由を奪われたときである。
では自由とは何か。
それは恐怖心がないということだ。
とすれば、服従心というのは、恐怖心への対抗策であり、自由を希求する心であるとも言える。
暗い湖に落ちていくような二人の姿に、そんな根源的なことまで考えさせられた。
本作で描かれるのはグロテスクな事件であり、目を背けたくなるような人間の弱さである。しかしその人間の弱さこそが、物語を生み、歴史となっていくことを大森立嗣監督は伝えてくる。
そしてそれでも尚、ほんの少しの勇気によって世界が変わることを、あの涙が出るほど美しい湖の風景を通して観客にそっと教えてくれる。